1. 運動神経は「遺伝」ではなく「脳のプログラム」である
「うちの子は運動音痴だから……」 と諦めてはいけません。
東京大学名誉教授の深代千之氏は、運動能力の本質を「筋肉量」ではなく、脳から体への指令系統、すなわち「運動プログラム(神経系)」にあると説いています。
特に「ゴールデンエイジ」と呼ばれる12歳頃までの時期は、脳の神経系が成人のほぼ100%まで完成します。
この時期にどれだけ「動作の引き出し」を脳内に書き込めるかが、将来の運動能力を左右するのです。
2. 科学が導き出した「36の基本動作」と忍者ナイン
深代教授が監修に携わるプログラムでは、特定の競技技術(サッカーのドリブルや野球の型など)を教え込む前に、「36の基本動作」をバランスよく経験することを重視しています。
平衡系: 渡る、傾く、回る
移動系: 這う、走る、跳ぶ
操作系: 投げる、打つ、蹴る
都内の狭い公園では、これらの動作が「走る・歩く」だけに偏りがちです。
意図的にこれらの多様な動きを経験させる環境こそが、現代の子どもには不可欠です。
※忍者ナイン: やる気スイッチグループが運営する幼児・小学生向けスポーツ教室。東大名誉教授・深代千之氏が監修。バイオメカニクス(生体力学)に基づき、あらゆるスポーツに応用できる「9つの基本動作」の習得を目的としている。
3. 杉原教授の視点:なぜ「やらされる運動」ではダメなのか
ここで、運動心理学の権威である杉原隆氏の知見が重要になります。
深代教授が「動作の質」を説き、杉原教授は「子どもの内発的動機(楽しさ)」を重視します。
「36の動作」を網羅したからといっても、それが機械的な反復練習であれば、脳の「実行機能(前頭前野)」は十分に活性化しません。
杉原教授が提唱するように、
自分で考え
状況を判断し
夢中でなにかを追いかける
といった遊びの要素があって初めて、脳の指令系統は太く、強固に結びつくのです。
まさに「忍者ナイン」であり、「バルシューレ」なのです。
※36の基本動作:文部科学省
4. 二人の理論が交わる「都内型・教育の最適解」
「動作の科学」と「遊びの心理学」。 この二つを掛け合わせると、現代の保護者が取るべき戦略が見えてきます。
特定競技への早期特化を避ける 専門的なチームに入る前に、まずは「多様な動き」を脳に貯金する。
環境の欠如を「プロの場」で補う 遊び場所がない都内だからこそ、科学的根拠に基づいた「質の高い遊び場」を賢く活用する。
結び:生涯スポーツの土台を築く
学力も、運動能力も、根底にあるのは「脳の発達」です。
多様な動きで脳を刺激し、夢中で遊ぶ中で自己制御(実行機能)を育む。 この大きな成長の流れを、家庭の外に作ってあげること。
それが、公園のない街で子どもの可能性を広げる、唯一にして最大の「羅針盤(ナビ)」となるはずです。
📚 参考文献・出典リスト
『運動会で一番になる子どもの育て方』(深代千之 著 / 祥伝社)
『スポーツバイオメカニクスで教える 運動神経を伸ばす本』(深代千之 著 / 枻出版社)
『幼児期運動指針』(文部科学省)