科学が示す「注意力」と「運動」の深い関係
「じっと座っていられない」「すぐ気が散る」「先生の話を最後まで聞けない」
こうした“落ち着きのなさ”は、単なる性格ではなく、脳の「司令塔」の発達段階と深く関係しています。近年の脳科学および認知心理学の研究は、そこに運動が極めて重要な役割を果たすことを明らかにしています。
1. 落ち着きのなさの正体は「実行機能」の未発達
行動や感情をコントロールしているのは、脳の最前部にある「前頭前野」です。ここが担う高度な認知機能をまとめて 実行機能(Executive Function) と呼びます。
実行機能には以下の3つの柱があります。
抑制機能: 衝動を抑える、注意を逸らさない。
ワーキングメモリ: 指示を一時的に記憶し、操作する。
認知の柔軟性: 状況に合わせてルールや行動を切り替える。
「落ち着きがない」と見える行動は、この実行機能がまだ発達のプロセスにあり、脳のブレーキがうまく働いていないサインとも言えるのです。
2. 科学が示す「運動」と実行機能の関係
● 運動は脳の“チューニング(調整)” 研究では、運動が前頭前野の神経ネットワークを活性化させ、一時的にも長期的にも実行機能を高めることが示されています。
ADHD傾向への即時効果(Pontifex et al., 2013) 20分程度の有酸素運動を行った直後、ADHD傾向のある子どもにおいて、注意力の向上と課題への集中時間の増加、そして学術的なパフォーマンス(読解や算数)の改善が確認されました。運動は「落ち着かせるための準備」として機能します。
「考えながら動く」重要性(Diamond & Ling, 2016) アン・ダイアモンド教授らの研究レビューでは、単に心拍数を上げる運動よりも、「認知的な負荷(考え、判断し、切り替える)」を伴う活動(バルシューレや武道など)の方が、実行機能の向上に高い効果を示すと主張されています。
3. なぜ運動が脳に効くのか?
運動をすると、脳内で以下の変化が起こります。
脳血流の増加: 前頭前野に酸素と栄養が行き渡る。
BDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌: 神経細胞の成長とつながりを強化する「脳の肥料」。
ドーパミン・ノルアドレナリンの放出: 注意力や意欲に関わる神経伝達物質のバランスを整える。
4. 結論:叱るより、動かす。
子どもが落ち着かないのは「反抗」や「やる気不足」ではなく、神経発達の途上にある状態です。有効なアプローチは、叱責による我慢ではなく、以下の環境づくりです。
多様な動きを経験させる: 神経系を多角的に刺激する。
認知的チャレンジのある遊び: 「ルールのあるボール遊び(バルシューレ)」や「鬼ごっこ」など、状況判断が必要な活動。
「体を使うことは、脳を整えること。」 運動は、子どもが自分自身をコントロールする力を育むための、最も自然で強力なサポート手段です。
📚 参考文献
・Diamond, A., & Ling, D. S. (2016). Conclusions about interventions, programs, and approaches for improving executive functions that appear justified and those that, despite much hype, do not.
・Hillman, C. H., et al. (2008). Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition.
・Pontifex, M. B., et al. (2013). Exercise improves behavioral, neurocognitive, and scholastic performance in children with attention-deficit/hyperactivity disorder.
・Best, J. R. (2010). Effects of physical activity on executive function: Contributions of experimental research on aerobic exercise and developmental studies of complex sport.